リョ三小ネタ

小ネタというか、短編の冒頭部分というか。
続きも書いてるんですけど、いろいろ書き足したいところがあってちょっと長くなりそうな気配を感じているので、いったんあげちゃいます。
※かなり馬鹿な感じのネタです。リョータ君が女装しています。イメージとしては昔メジャーリーガーの新人歓迎の恒例行事だったアレ的な感じ。
ふたりとも大学生で、いろいろ捏造してます。
体育会系ノリや攻めの女装が苦手な方はご注意ください。

 ベージュを基調としたチェック柄のプリーツスカートを翻せば、その下から覗くのは色気のないパワータイツと毛が生えた筋肉質の脚だ。それでもスカートがひらめけば視線を奪われるのが男という生き物の性で、これはかつて人類が狩猟をなりわいにしていた頃の習性の名残だというが、視線を奪われたところで見えるものはパワータイツと見苦しい毛脛ばかりである。
「……なぁに見てやがんだよオラァっ!」
 いかなここが朝食をとりにきた善良な大学生たちで賑わう学内食堂であろうと、不躾な視線を送る人間にはついガンをくれてしまう。これは宮城リョータの習性だった。
「おいおい、だめだぜリョーコちゃん。もうちっとおしとやかにしねえと」
 そんなヤジを飛ばしながら隣でげらげら腹を抱えて笑う男――三井寿も、かつては長髪に短ラン姿でガンを飛ばしながら近隣を練り歩いていたいっぱしの不良で、湘北高校問題児軍団の筆頭だった。いまはその面影もすっかりなりを潜め、黙ってさえいればどこかの雑誌の読者モデルかなにかのような爽やかさだ。宮城はこれを詐欺罪の一種にあたる悪質な不法行為だと思っている。
「ああクソッ、このクソ体育会系め!」
「あーいい気味。悔しかったらさっさと俺より年上になるこったな」
「……あんときマジにぶっ殺しとくんだった」
「なあ、あとで写真撮らせろよ」
「いますぐぶっ殺す!」
 と、物騒な会話を交わしながら、がたがたと乱暴に椅子を鳴らして学食のど真ん中を陣取る。その途端、学食じゅうの視線が一斉に自分へ集まったように感じたのは、決して宮城の自意識過剰などではないはずだ。
「いつ誰がはじめたんだよ、こんなヒデェ伝統……」
 落ち着きなく貧乏ゆすりをしながら問うた宮城に、三井はニタニタ笑いながら悠々と頬杖をついて答える。
「いまの四年の先輩たちが入ったときにはもうあったってさ。その先輩が一年だったときにおんなじこと四年の先輩に聞いたら、俺たちが一年のときにはもうあったっつってたらしいから……」
 十年以上? と雑な計算をした三井が、パックのコーヒー牛乳をすすりながら首を傾げた。
 宮城がなぜこんな辱めを受けているかといえば、これがこの大学のバスケットボール部の伝統だからに他ならない。新入生が受ける洗礼というやつだ。関東二部に所属する古豪であるこの大学では、毎年、ゴールデンウィークに新入生を含めた大規模な合宿を行う。その合宿後のオフを挟んだ最初の朝練でようやく新一年生にロッカーが与えられるのだが、その代わり、その日の朝に着てきた私服をすべて隠されるのだった。そして上級生が選んだありとあらゆる趣向を凝らしたコスチュームを着せられ、一日中その格好で過ごすことを強制されるのである。
 なぜこのはた迷惑な洗礼をいまのタイミングで行うのかと言えば、前述のゴールデンウィーク合宿というのが、ここで例年推薦入学組以外の一年生のじつに七割が脱落するという悪名高きハードさを誇っていて、いわばこの合宿を耐え抜いたものだけが真のバスケットボール部員だからだ、ということらしかった。実際、宮城の同級生たちも半分以上がすでに退部届を出している。
「――ところでさ、アンタは去年なに着たワケ?」
 そう尋ねる宮城は、チェックのプリーツスカートに半袖のワイシャツ、紺色のニットベストにおおきな赤のリボンという、大人向けの映像作品なんかに出てくるエセ女子高生のような出で立ちだった。ご丁寧にベストと揃いの色のハイソックスまで買ってあるくせにウィッグや化粧品の用意はなく、服装以外は普段の宮城リョータそのままというミスマッチ具合が涙を誘う。それでも比較的小柄な宮城はまだ見られた方で、自販機よりも背丈のおおきい同級生たちがナースだのメイドだのといったコスチュームを着ている姿は一周回って壮観ですらあった。
「俺? 俺はチャイナドレスだったぜ。真っ赤な長ェやつでさ、こんなとこまでスリットが入ってやがんの」
 こんなとこ、という言葉にあわせて太腿のかなり際どいところを示した三井は、宮城の肩を叩き「お前はまだマシなほうだ」と笑った。
「岸本なんか、あれだぜ。バニーちゃん」
「……ウッソでしょ?」
「マジマジ。まあ、流石に上から短パン履かしてもらってたけどな」
 宮城は頭の中に網タイツを履いた関西弁のいかついロン毛男を思い浮かべ、うげェ、と正直な心境をそのまま表情にあらわした。
 一昨年のインターハイでは因縁浅からぬ死闘を演じた豊玉高校。そのなかでも試合前から特に因縁深かったのが、PFの岸本実里だった。あれがチームメイトになると知って内心辟易とした思いでいたのが、一気に同じ苦境へ挑んだ戦友のような心持ちになる。
「アイツ、お前の百倍は暴れてたぜ」
「はは、そりゃそうでしょうね……」
 と、さっきまでさんざんゴネていたくせに、自分より不幸な目に遭った人間がいると分かった途端すっかり溜飲が下がった思いでいる宮城だった。エセ女子高生もナースもメイドも、バニーガールよりは絶対にマシだ。
「ま、今日一日の辛抱だ。人が多い講義は適当にフケときゃいいんだしよ」
「あーあ、これだから元ヤンはやだねェ。すぐフケるのサボるのって」
「うっせえな。お前だってひとのこと言える立場かよ」
「いやぁ、俺はちょっとばかし派手だっただけで、別にグレちゃいねえっすもん」
 心外だなァ、と大袈裟に目を剥いてみせると、三井はすっかり拗ねたような顔で下唇をつんと尖らせながら宮城を睨め付けてきた。
「どーせ俺は元ヤンの不真面目ヤローだよ」
「事実っしょ。拗ねんなって」
「……お前ってホント可愛くねぇ」
「あれ、いまさら?」
 宮城の軽口に「にゃろう」と三井が青筋を立てたところで、二年生と思しき一団が近寄ってきて、三井の肩を叩く。そろそろ一限がはじまる時間らしい。じゃな、と律儀に片手をあげて去っていった三井を見送りながら、自分も席を立ってひと気のない空き講義室へ向かった。もちろん、三井のアドバイスに従って一限をフケるためである。

「ちょっと三井サン、せめて真っ直ぐ立てっての……っ!」
 耳元で苦しげな唸り声をあげる上級生をなかば引きずるようにして歩かせ、無理矢理タクシーへ詰め込む。宮城もスカートを翻しながら隣に座り、少し悩んで自宅の住所だけを運転手に告げた。三井の部屋へ遊びに行ったことは何度かあるが、道を案内できるほど入り浸っているわけでもない。
「水飲める?」
「……んー」
「んー、じゃなくて。ほら、飲んで」
 宴席ではまだ正体を保っていたのだが、店を出た途端にこの通りだ。ミネラルウォーターのボトルを強引に押し付け、はあ、とおおきなため息をこぼす。普段ならさらに小言と悪態のひとつやふたつこぼしているところだが、今日ばかりは三井ひとりを責められなかった。
 今夜は新入生の歓迎会という名目の大宴会が行われていた。体育会系の悪癖とでも言うべきか、自己紹介をすれば一気飲み、席が変われば一気飲み、OBが顔を出せば一気飲み、である。
 なかでも新入生を差し置いてもっとも飲まされていたのが三井だった。断ればいいのに、と何度横目で彼の苦笑いを盗み見たことか。
「アンタ、なんで断んないわけ?」
「んん? んー……」
「だから、んーじゃねぇっての、もう」
 ぐずるように鼻を鳴らして座席のうえに体を丸めた三井を見下ろし、また、おおきなため息をついた。高校時代よりやや長めに整えられた前髪が、眼下にあるすらりと細い鼻梁に陰を落としている。それを指の先で軽く払ってやると、三井の喉が気持ちよさそうに低く鳴った。
「岸本……サンとキスなんかしちゃってさ。高校んときならぜってー手ェ出てたっしょ」
 そう言いながら、宴席での一幕を思い返す。
 男所帯にありがちな悪ふざけだ。三年生のひとりが三井へ執拗に絡み、昨年の女装姿の話を持ち出して彼をからかった。三井も三井で俺はなにを着ても似合うとかなんとか得意げに言い出し、来年もういっぺん着ろとか次はお前がバニーちゃんだとか言われながら、肩を抱かれたり、脚を触られたりしているうちに、着ていたシャツの下まで手が伸び、へそが覗き、雲行きはどんどん怪しくなっていった。
 そこで「よしましょうや」と助け舟を出したのが岸本だったのだが、その岸本も結局捕まって、さんざん飲まされ、からかわれた挙句、どういうわけか「キース、キース」という悪趣味な掛け声が方々からあがりはじめ、筋金入りの負けず嫌いふたりは揃って勢いよく立ちあがると「やったろうやないかい」とかなんとか大声で高らかに叫んで、がつんと、それはそれは見事なディープキスをかまして見せたのだった。
「バッカじゃねーの」
 ふん、と鼻を鳴らしてから、ずび、と啜る。スカートなんてものを履いているせいか初夏の夜はまだ肌寒くて、それなのに車内の冷房は効きすぎていた。酔いが醒めてきたせいも相まって、ぶるりと背筋が震える。それから、すこしだけ胃の辺りがむかむかとした。
「……バッカじゃねーの」
 次どっちですか、と運転手が視線だけで宮城を窺う。その他人行儀で無関心な視線に安堵を覚えながら「右っす」とちいさな声で答えた。

たぶん続きます。

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